被相続人が生前貸金庫を契約している場合があります。
貸金庫がある場合相続人の一人が勝手に開閉を求めることはできるのでしょうか?
実務上どのように処理すればいいのでしょうか?
今回は貸金庫がある場合の相続についてまとめました。
貸金庫契約の法的性質
貸金庫契約については、金融機関が貸金庫室内に備え付けられた貸金庫もしくは貸金庫内の空間を利用者に貸与し有価証券、貴金属などの物品を格納するために利用させるものと最高裁判所の判決で出されています。したがって法的性質は賃貸借の一種であると考えられています。それを踏まえると貸金庫契約の借主がなくなった場合、貸金庫契約は自動で終了せず相続人に賃借権が承継されることとなります。
また複数人相続人がいる場合は、賃借権は各相続人の準共有になると考えられます。
貸金庫の開閉について
貸金庫の賃借権が各相続人の準共有であるとすれば、共同相続人の1人が貸金庫の開閉を求めることができるかどうかは、貸金庫の開閉が処分行為、管理行為、保存行為のいずれと考えるかによります。
貸金庫の内容物を確認するために開閉をしたいとのことであれば、貸金庫の賃借権の内容などに変更を加える行為ではないため、遺産分割協議などのために他の相続人にとっても有益であるので、保存行為として各相続人が他の相続人の同意を得なくても開閉が可能であると考えられます。
また貸金庫にある相続財産を確認するだけであれば、相続財産の調査行為の一環として各相続人が開閉できると考えられます。
一方で貸金庫にある一部のものを持ち出す行為は相続財産の調査とは言えず処分行為に近いと考えられます。したがってその場合は相続人全員の同意がないと開閉できないと考えられます。
実務上の対応
貸金庫の開閉が保存行為なのか、処分行為なのかを金融機関のスタッフが見分けるのは実務的には難しいでしょう。処分行為をする予定でも、相続人の一人が嘘をつく可能性もあります。万が一貸金庫の中身を相続人の一人が持ち出したとなれば、大きな騒ぎとなります。
したがって実務的にはいずれの場合であっても、すべての相続人の立会いを求めるか、惜しくは相続人全員に承諾書を求めるかの対応となります。
他の相続人の承諾が得られない場合
他の相続人から貸金庫の開閉の承諾が得られない場合はどのようにすればいいのでしょうか?基本的には話し合いでお互い納得をするというのが原則です。また中立的な専門家である司法書士や行政書士など専門家が相続を担当するだけでも、話し合いがスムーズにいくケースもあります。(代理や仲裁はできません。)遺言に貸金庫について書かれている場合は、遺言執行者が遺言執行の行為として行うことができます。
遺言がない場合などは、事実実験公正証書と呼ばれるものを作成することで、解決ができます。事実実験公正証書を作成する際に、公証人が実際に立会い、貸金庫の中身を確認します。公証人が行うため、持ち出しのリスクがほぼ0であり、金融機関は相続人全員がいなくても、開閉に応じてくれる可能性が極めて高いです。また被相続人の財産目録作成にも役に立ち、証拠能力も高いので紛争防止の観点からもお勧めできます。