無権代理とは、本来代理権のない人が、あたかも代理人のように振る舞い、法律行為を勝手に行うことです。本来、このような行為はあってはならないのですが、現実として起こるケースがあります。
今回は無権代理と相続の関係について詳しく解説していきます。なおここでは本来、法律行為を自分自身で決定するべきである人を本人、勝手に法律行為を代理する人を無権代理人と呼ぶことにします。
無権代理の民法条文
無権代理に関することは民法113条にて規定されております。
- (第113条)
- 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
- 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
本人の権利について
本人には「追認権」と言う権利があります。また追認を拒絶することも可能です。
本人による追認
無権代理による取引を、本人が承諾をした場合や認めることを追認といいます。追認された場合は、その取引は原則としてはじめから有効であったものとなります。(民法第116条)。
これは本来は無効な行為を、本人の意思により有効にすることができるという民法の規定です。
無権代理と相続
まずわかりやすく以下のような実例で考えてみます。父親A(本人)が不動産を所有していて、息子B(無権代理人)が、勝手にこの不動産をD(相手方)に売却してしまったとします。
この場合に、相続発生となるとどうなるでしょうか?各々のケースに照らし合わせて考えてみます。
本人が死亡してしまったケース
本人が死亡した場合で、相続人がBしかいない場合、Bが相続をすることになり無権代理行為は有効とされます。
一方、共同相続人がCがいる場合、追認権はB.Cに相続されかつ不可分のため、Cが追認にした場合は有効となり、追認しなかった場合、無効となります。
無権代理人が死亡してしまったケース
無権代理人が死亡した場合、Aが無権代理人の債務を負うことになります。そのため、損害賠償請求などはAが負担することになります。後述の民法896条(相続の一般的効力)が根拠となります。
一方で、Aは追認拒絶することができます。これは、共同相続人Cがいる時も同様で、その場合、共同相続人Cも無権代理人の債務を負うため、損害賠償責任があります。
民法896条:相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
ここでの「被相続人の財産に属した一切の権利義務」とは、負の財産や履行義務など全てを含みます。