配偶者居住権
2019年から改正相続法が順次施行されています。その中の目玉の1つでもあるのが配偶者居住権です。
配偶者居住権は簡単にいうと被相続人の配偶者が、被相続人の死亡後もそのまま住み続けることができる権利です。
以前からあったように思われますが以前は配偶者が自宅を相続しそれによって住み続けるという形でした。しかしながら自宅の評価額は不動産のため高額になることが多く、きちんと遺産分割ができない、もしくは評価額のみで等分してしまうと不動産のみしか相続ができず、残りに現金などの財産が他の相続人に全ていってしまいます。
残された配偶者が高齢の場合、遺産として現金が全く手元に残らないと生活面で不安が残ることも考えられます。これを解決する制度が配偶者居住権なのです。
配偶者居住権の法的根拠は新民法の1028条です。
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
長期居住権と短期居住権
配偶者居住権は配偶者短期居住権と配偶者長期居住権の2種類に分かれます。一般的に配偶者居住権というと長期の居住権をさします。
配偶者短期居住権について詳しく解説していきます。
配偶者短期居住権は、亡くなった方と配偶者が自宅で同居していた場合、遺産分割協議が終了するまで(最短でも相続開始から6ヶ月)無償で住み続けることができる権利です。
今までの場合、仮に遺言に全ての遺産は息子に渡すと書かれていた場合、今までの場合最悪配偶者が追い出された恐れがありました。今回の民法改正により配偶者短期居住権が新設されたためそのようなトラブルが起きる可能性がなくなりました。(実務上は配偶者短期居住権は裁判の判例として認められていました。)
配偶者短期居住権と配偶者長期居住権の違いは、配偶者短期居住権の場合遺産分割が終了するまでの暫定的な権利で、配偶者長期居住権は遺産分割協議の決定により終身に渡り継続して行使できる権利ということです。
配偶者短期居住権に関しては暫定的なものであるため、登記の手続きは必要がありません。一方長期居住権に関しては遺産分割や遺言によって認められる権利であるため登記をする必要があります。
配偶者居住権の条件
配偶者(長期)居住権は誰でもホイホイと認められる権利ではありません。一定の条件を満たす必要があります。
被相続人の財産である自宅に、相続開始時に住み続けているということが大前提となります。
すなわち自宅の名義が被相続人以外の人が入っていたり、相続開始時に別居していたり、賃貸住宅であったりする場合は認められません。
相続開始時に住み続けているという点は場合によってその条件の実現が難しくなる可能性もあります。配偶者が一時的に入院しており、相続開始時に自宅にいなかった場合どうなるでしょうか?もしくは配偶者が認知症になってしまい施設に入っていた場合どうでしょうか?
おそらく実情がどのようになっていたかによって判断されるでしょう。前者の場合は配偶者居住権が認められる可能性が高いと考えられます。今後の裁判による判例を注視して行く必要があるでしょう。
あくまでも配偶者が自宅に住み続けていれば良いのです。単身赴任のケースなども考えられるため配偶者居住権は別居していた場合でも認められます。
配偶者居住権の注意点
配偶者居住権はいくつか注意すべき点があります。まず一つ目が配偶者居住権は住み続けているだけでは認められないということです。
法務局に行き必ず配偶者居住権を登記する必要があります。仮に登記をしなかった場合、相続人の誰かが自宅を引き継ぎ配偶者に対して「出て行ってくれ!」と言われたとき対抗することができません。
逆に登記さえしていれば、相続人が売却をし被相続人とは縁もゆかりもない人が自宅を所有したとしても、無償で住み続けることが可能です。配偶者居住権を登記する期限は特にありませんがなるべく早く行うことをお勧めします。
配偶者居住権は配偶者が死亡した場合、消滅します。配偶者居住権を相続することはできません。また配偶者居住権を又貸しすることはできません。この場合配偶者の義務違反にあたり所有者に追い出されることになります。(所有者が配偶者を追い出す配偶者居住権の消滅請求が認められます。)