被相続人の死亡後、その者の預金口座に現金があり遺産分割の対象となる場合は遺産分割が終了するまで相続人単独では相続預金の払い戻しができませんでした。
そのため大きな金額が必要となるお葬式で相続預金を使うことができず、誰かが建て替えるなど大変不便でした。そこで2019年に法改正があり、条件はあるものの払い戻しが受けられるようになりました。
払い戻しの根拠となる民法
この「遺産分割終了前の預貯金の払い戻しができる」の根拠は民法909条の2です。
(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
- 第909条の2
- 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
※本法に定める法務省令とは、「民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令」を指します。現在では150万円を限度額としております。(法令による定めのためどの銀行も限度額は同じとなります。)
遺産分割前の預貯金の払い戻し
先ほども述べたように遺産分割前であっても預貯金の払い戻しができるようになりました。家庭裁判所の判断が必要な制度と、家庭裁判所の判断が不要な制度の2制度が設けられました。家庭裁判所の判断が不要な制度の場合、各相続人は相続預金のうち各銀行(定期預金も含む、また複数支店がある場合、それは同一とする)ごとに最大150万円まで単独で引き出すことが可能です。
単独で払戻しを受けられる金額 = 相続開始時の預金額× 1/3 × 払戻しを求める相続人の法定相続分
払戻した預貯金の使い道に制限はございません。従って生活費や葬儀の費用以外に使用することも可能です。また「単独で」という文言が非常にポイントとなります。この払い戻し制度ではお役所の判断や他の相続人の署名や同意は一切必要がありません。当然この払い戻しで受けた分の金額は遺産分割時に考慮されます。
また銀行により差はありますが、引き出しまでに2週間程度の時間が必要です。
一方家事事件手続法200条3項を根拠とした家庭裁判所の判断を経て預金の払い戻しを行うこともできます。こちらの制度の場合は、やや手続きが増えるものの150万円といった上限はなく、家庭裁判所の判断で金額を引き出すことが可能です。
制度を利用するために必要な書類
家庭裁判所の判断を仰ぐケース
- 家庭裁判所の審判書の謄本
- 預金の払い戻しをしたい方の印鑑証明
- 被相続人の除籍謄本、全部事項証明書
家庭裁判所の判断を入れないケース
- 相続人全員の戸籍謄本or全部事項証明書
- 預金の払い戻しをしたい方の印鑑証明