特定財産承継遺言
特定財産承継遺言とは、遺産の分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言です。「甲土地を相続人Aに相続させる」遺言等です。
特定財産承継遺言の目的である財産が不動産である場合は、遺言執行者は当該遺言によって不動産を取得した相続人が受けるために必要な行為をすることできます。
また、特定財産承継遺言の目的である財産が預貯金であるときは、遺言執行者は、その預金、貯金の払戻の請求およびその預金または貯金に関わる契約の解約の申入れをすることができます。
ただし、解約の申し入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合にかぎります。
特定財産承継遺言があっても法定相続分を超える部分は登記が必要
相続の効力等に関する見直しの頁でも記載してますが、改正前は遺言の内容が「相続させる旨」の内容(特定財産承継遺言)の場合は登記なくして第三者に対抗できました。
「相続させる旨」の遺言は特段の事情がない限り、「遺産分割方法の指定」にあたるとして前記遺言によって不動産を取得した者は登記なくして第三者に対抗してすることができるとされています。
相続人に対し「相続させる旨」の遺言書があれば遺言者が死亡後相続人が登記を備えず、先に第三者が登記を具備しても相続人はいつまでも登記なくして第三者に対抗できることになり、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者が対抗できず、取引の安全、登記制度の信頼を害することになります。
そこで、「相続させる旨」の遺言があった場合にも、遺産分割と同様に自己の法定相続分を超える部分の取得については、登記なくして第三者に対抗できないことになりました。
民法899条の2により法定相続分を超える部分は対抗要件(登記)を備えないと第三者に権利を主張できません。
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない。
相続により債権を取得し、債務者に対し主張するには
亡くなった人物が債権を持っていた場合、債権も権利である以上、相続人に承継されます。相続人全員か債務者に対し通知をすることで主張することができます。(民法467条1項)
相続人の一方が法定相続分を超える債権を取得して債務者に主張するには相続人全員の債務者に対する通知ですが相続人の一人が協力しない場合は相続人の全員からの通知ができません。
そこで、相続により債権を取得した場合はその債権を承継することになった相続人から遺言の内容や遺産分割の内容を明らかにして承継の通知をすれば相続人全員が債務者に通知をしたこととみなされるようになりました。
前項の権利が債権である場合に置いて、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をした時は、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものと皆して、同項の規定を適用する。
被相続人が債務を負っていた場合による債務の承継
相続による債務承継
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は民法902条の規定により相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただしその債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときはこの限りでない。
相続債権者は各共同相続人に対して、法定相続分に応じてその権利を行使することができるよう明文で認められました。ただし共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、その効果は全ての相続人におよびます。