一人暮らしで寂しいという理由でペットを飼育する人が増えてきています。しかし飼い主本人が高齢の場合、亡くなってしまう以外にも認知症や長期入院という事象によりペットの世話ができなくなるリスクもございます。今回はペットがいる場合、家族信託を利用した解決方法を共有いたします。
家族信託は従来の遺言書だけでカバーしきれない問題を柔軟に解決できる可能性を秘めております。(もちろん民法に基づく公正証書遺言や任意後見契約で解決できる問題も多数あります。)家族信託とは何か?について簡単に解説しているページはこちらにありますので、合わせて参考にしてください。
現在の状況
Aさんは川口市に住む79歳の女性です。旦那様を先に無くし、子供もいなかったため寂しく暮らしています。Aさんには法定相続人がおりません。2年前に完全に一人で暮らすようになってしまい、寂しかったため犬を飼うことにしました。
愛犬がいるので寂しくはないですが、自分が認知症などで判断能力がなくなった時、愛犬の行く末が心配です。旦那の甥っ子など頼れる親戚は数人いますが、みんな遠くに住んでおり、マンション暮らしのため愛犬を引き取ってもらうことは難しいのが現状です。このような場合、家族信託を利用した例をみてみます。
家族信託の計画
・委託者 : A
・受託者 : 甥っ子B
・受益者 : ペットショップ
・信託財産 : 現金化された一部の遺産
・信託期間 : ペットの死亡まで
・残余財産の帰属先 : 甥Bとペットショップ
家族信託のポイント
まず解決策としてAさんと司法書士の間で任意後見契約公正証書を結びます。Aさんに万が一のことがあった場合(病気や認知症など)信頼できるペットショップに引き取ってもらうことになっております。
司法書士先生には愛犬の引き渡し手続きとそれに伴い発生する毎月の餌代や世話代の支払いをするように依頼しておきます。
遺言の中で自宅不動産は司法書士が処分しすべて現金に換えます。現金化された資産のうち飼育代と信託報酬等の合計金額を上限とする信託財産を設定し残りを遠い親戚に遺贈します。(清算型遺贈)
愛犬がのこされるリスクは飼い主の死亡以外にもあるため任意後見契約とセットで準備しておくことで生前の判断能力喪失と死亡の両方のリスクに備えることができます。
頼れる親戚は遠方にしかいないため、愛犬を引き取ってもらうことや定期的に会いに行くことも物理的に難しいでしょう。そこで長い付き合いのあるペットショップにいざという時のお世話をお願いしその世話代や餌代の金額をあらかじめ決めておきます。
Aさんが施設に入った時などのために任意後見人となった司法書士がペットショップに飼育を任せる体制を作ってくれます。
Aさんが亡くなった場合、司法書士が遺言執行者として遺産をすべて取りまとめます。遺言信託の仕組みの中で甥っ子に便宜上受託者となってもらいますが、実質的には司法書士がペットショップとのやり取りの窓口となります。
信託終了は愛犬が亡くなった時です、残った残余財産はペットショップと甥っ子に振り分けて完了です。受益者は個人もしくは法人としなければならないため愛犬自身にすることは不可です。従いまして、ペットの飼育費用などを信託財産にして実際の飼育を行うペットショップを受益者として受益者が金銭的なメリットを受けられる設定としております。